【第13回 タムロン鉄道風景コンテスト特別企画 Vol.1】鉄道写真家 広田 尚敬氏が語る、過去写真から作品を選び出す心得

第1回目から「タムロン鉄道風景コンテスト 私の好きな鉄道風景ベストショット」の審査をしていただいている鉄道写真家の先駆者、広田尚敬氏に新らたに撮影しにくい今だからこそ、「過去作品を見直してフォトコンテストに応募する心得」を語っていただきました。

皆さんこんにちは。今年も「第13回 タムロン鉄道風景コンテスト」の応募にファイト!していますか?きっと燃えていることと思います。楽しみながら線路際でレンズを操っている、皆さんの熱中した姿が見えるようです。

タムロン鉄道風景コンテストは、応募作品の撮影にタムロンレンズを使用する必要はありません。なんでもOKですが、タムロンレンズを使いこなすと入賞確率はアップします。なぜなら、タムロン賞があるからその分幅広くなるというわけです。ぜひ狙ってください。

今年はこんな世の中なので、昔の写真を応募しようという人も多いかもしれません。それもいいですね。撮った時はあまり気乗りのしなかった作品も、今見ると“いいじゃないか、最高!”という写真にきっと出会えることでしょう。ネガやポジにカビや退色が見えても大丈夫です。歴史、年輪ととらえ作画してください。プラス思考で行きましょう。

このプラス思考は当初から、コンテストに携わる私たちの共通の思いとなっています。悪いから落とすのではなく、いいところがあるから引き上げる!が私たちの気持ちであり、考えなのです。人や文化の発展の根底は、ここにあるのです。

今回ご覧いただく作品は、昔のFilmから選びました。私が本格的に撮影機材をデジタル化したのが2001年ですから、それ以前の作品ということになります。


写真A


写真B

箱根登山鉄道で撮りました。ミラー式のレンズ(焦点距離500mm)を用いているので、輪のようなボケが特徴です。このリングボケ、まるで天使のようなので、けっこう気に入っています。箱根も確かミラー式500mm1本だけで出かけていますが、およそレンズは何本も持つより、1本だけのほうが撮りたい視覚が定まり(そこが個性につながる)、普段見えないものも見えてくるのでお勧めです。勇気がいりますけどね。

写真A, Bは、小涌谷の踏切脇からポイント機器を中心にまとめています。写真Aは視野を狭めながらも、周囲の情景が見えるように構成し、写真Bは旧形電車の音が聞こえてくるように狙っています。同じ駅構内でポイント機器という同じモチーフを撮影しても、撮るときの意識が異なると、写真が違ってくるということです。それが写真です。


写真C


写真D

写真C, Dは宮ノ下、写真Cは深山でも30°C近くを指す、真夏の温度計をメインにまとめました。写真Dは駅名標を大きく撮りながらも、古レールの柱を入れてフォーカスを外して、文字が説明的になるのを避けています。2枚ともこの駅の印象を個性的にまとめたもので、独自なまなざしを大切にしています。写真アートのベースは個性です。


写真E


写真F

江ノ電の極楽寺付近で撮影しました。駅近くの跨線橋から鎌倉方面を見るとトンネルがあり、写真Eのような光景が見られます。電車はヘッドライトを点灯していたほうがいいか、テールライトがいいか。また、電車がトンネルの外で明るく見えたほうがいいか、雨や雪ならどうか、いろいろ考えられるところです。この場所でなくとも、近くで気に入ったロケ地が見つかったら、条件を変えて撮ってみると勉強になるかもしれません。

今回、写真Fのポジを手にしたときは、何をどんな意図で撮影したのか、自分でも分かりませんでした。おそらく撮影直後はそれなりの意気込みがあってこのポジを切り出したものと思われますが、20年以上の時の経過が自分の写真を客観視でき、意気込みの空振りを感じました。しかしこの写真、何だか印象に残り、外出先でも思い出したりしています。それだけインパクトを秘めた写真だということですが、“凡人”にとどまった写真の例です。内容が自分にわかること、それが写真の最低条件です。


写真G


写真H

秋の写真をお見せします。写真Gは阪急・夙川付近の11月で、都会の紅葉が見事です。ここではあえて、視線を集める電車の顔は写していません。桜の紅葉の美しさがより目立つように考えたからです。一方、写真Hは地味なクヌギの葉1枚です。どちらがより印象的で深みがあるかは、一目で知ることができるでしょう。葉1枚のほうが印象深いですね。

時はさかのぼりますが、あるとき秀吉は、千利休から“朝顔を愛でる茶会”に誘われます。庵近くの庭狭しと咲く朝顔を、純粋に愛でながらの茶を楽しみに訪れると、なんと、それまで咲き誇っていた朝顔は一輪残さず刈られ、茶室に一輪あるのみでした。利休は、花は一輪、それも暗めの空間にあるほうが深みを感じて印象的ということを演出したのです。秀吉はこの美学を知り、感動(深読みでは激怒)したと…。この2枚の写真を並べると、そんな逸話を思い出します。

写真Hは白糠線廃止の翌日に撮影したものです。廃止が1983年10月23日ですから、24日に到着しての撮影になります。小雨の沿線をゆっくり歩くと、冷風が天を渡ります。ひとしきり強く、ときに緩やかに…。ふと枝先のクヌギの葉が舞い、一葉がレールに付着しました。地味な廃線をいたわり彩る、自然からの精一杯のはなむけです。レンズ交換の暇はありません。そっと近づき、息を殺し、細心の注意を払ってカメラを向けました。

※写真Hは雑誌の取材において、列車運行が終了した廃線跡で特別な許可を得て撮影をしています。


写真I


写真J

今度は雪のシーンです。狙いによって雪は現実となったりロマンチックとなったりと変化します。写真Iはロマンチックにまとめました。タムロンレンズの絞りを開放にして列車の窓からのバルブ撮影です。グリーンの灯の流れは信号灯です。写真Jは現実をドキュメンタリー的にとらえています。まだ只見線にSL貨物が走っていた時代ですから、かなり昔になります。機関車はC11でした。客車はキハ40などのディーゼルカー。高校生中心のラッシュアワーが存在していました。構内踏切を渡る彼らの寒そうなシーンをとシャッターのタイミングを計っています。

こうした構内踏切は江ノ電、箱根登山にいまも残っています。そうだ、JR鶴見線、東急池上線でも見られるし、いいアングルで狙えます。ここでもマナーと安全に配慮して撮影を楽しんでください。


写真K

最後の作品は写真Iと同じ北海道を走るディーゼルカーからのシーンです。今回12枚の写真を過去のFilmから選抜しましたが、最も気に入っている1枚です。もちろん気になる写真は、江ノ電を含めて多数ありますが、これをトップとしたのは、根がロマンチストだから?かもしれません。

この写真は車内から手持ちの撮影です。もちろん手ブレ補正などとは無縁の時代です。中腰で列車の揺れに気を付けながらバルブ撮影していますが、今は機材が進歩してどのような写真も意のままに狙える時代です。そこに“ひと工夫”を加えれば、心ときめく写真が撮れないわけはありません。

自分でお気に入りの一枚がゲットできたら、試しに応募してみてください。自分では気づかなくても、その行為は文化の継承や進展に、確実につながっているのです。敷居は決して高くありません。

第13回タムロン鉄道風景コンテスト開催中!

今年もタムロン鉄道風景コンテストの応募がスタートしております。
応募につきましては第13回タムロン鉄道風景コンテスト特設サイトをご覧ください。

TAMRON公式Webサイト

写真家プロフィール

広田 尚敬 Naotaka Hirota

1935年東京生まれ。中学時代より鉄道写真を始め、鉄道ファン同士の交流を深める。1960年よりフリーランスの写真家として活動。初個展「蒸気機関車たち」で独自の表現世界を社会にアピール。日本鉄道写真作家協会初代会長をつとめ、日本の鉄道写真界を牽引。
著作「永遠の蒸気機関車」(日本交通公社)「動止フォトグラフ 国鉄主要車両編」(交友社)「ローカル線を歩く-小さな四季の旅」(小学館)など多数

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