【第12回 タムロン鉄道風景コンテスト特別企画 Vol.1】鉄道写真家 広田 尚敬氏が指南する鉄道写真の極意「熱心に撮る」

第1回目から「タムロン 鉄道風景コンテスト 私の好きな鉄道風景ベストショット」の審査をしていただいている、鉄道写真家の先駆者、広田尚敬氏に鉄道写真撮影のこだわりについて語っていただきました。

皆さんこんにちは。鉄道写真、撮っていますか~?
先週、東京駅でN700を見ていたら、高校生に声をかけられました。
「今年もタムロン鉄道風景コンテスト盛り上がっていますが…、どうしたら鉄道写真、上達しますか?」と尋ねられました。

「そうですね、まずは自分が撮りたいものを熱心に撮影することです。どの分野でも熱心であることが上達の秘訣です。鉄道撮影も例外ではありません」と答えました。

こちらの目を見て一種懸命耳を傾けていたので、きっと理解してくれたと思います。それから、「ダメもとで撮り溜めたものを応募していましたが、3回目に佳作に入りました!嬉しかったです。今回も応募します!」という人にも出会いました。諦めずに応募することに熱を入れたからこその快挙です。

入賞の極意は、「撮ることにも、応募することにも熱心であること」が大前提なのです。必要な知識やセンスは後からついてきます。

これからご紹介する鉄道写真を見て、撮る人が熱心なら、写真はどう変わるのか、ビジュアル的なところから学んでください。

作画意図が達成されても、狙い続ける その1

電車が並んだシーンを撮影するのが目的でした。2本半並んだところで2カット撮影。

目的は達したと思いましたが、湘南新宿ラインの231系をファインダー内で熱心に捉え続けた結果・・・

前からほしいと思っていた絵本的なこの写真を撮ることができました。最初の目的を果たし、そこでカメラを離さなかった勝利です。

作画意図が達成されても、狙い続ける その2

成田エクスプレス259系を、同じ位置で撮りました。

ここでは絵本的写真が狙いで、その目的を達成。電車をファインダー内で熱心に捉えた結果・・・

正面のクローズアップを含め、パンタグラフの様子も撮ることができました。信号の緑を、まるでエメラルドの雫のように表現できたのは、熱心に追いかけたから得られました。

フィルム時代の初期は、一発必中が撮影のすべてでした。巻き上げは手動だし、フィルムそのものも高価だったからです。しかし、デジタル化はそうした撮影を一変しました。とにかく撮って不要なものを後から消すようになりました。

作画意図が達成されても、狙い続ける その3

クラシックスタイルの都電9000形を撮影しました。

形は良く捉えられていますが、もう一つ魅力に欠けます。

そこで祝日に付く日の丸をアクセントにしました。どうせならアップで!

撮って終わりでなく、一つ上の味付けを考えた勝利です。

ちょっとした努力で新たな発見

天竜浜名湖鉄道TH2100形です。

沿線で撮影していたら古めかしい跨線橋が目に入りました。
そこで道なき道を掻き分けて行ってみたら欄干は古レール。しかも軽便のものらしく小型です。

自分の手を入れてサイズが分かるよう撮影しました。ちょっとした努力で新たな発見です。

時には茶目っ気も…。

富士山と電車を撮影に行きました、御殿場線岩波~裾野間です。

岩波駅はSL時代スイッチバックの駅でした。このあたりは勾配がきつく、D52も奮闘した区間です。

富士山の雲行きがいまいちなので、周りを見渡すと面白いものが目に付きました。

なになに、このあたりに人車(人が押す軽便鉄道)があった?!

種明かしは“日蓮上人車返し”と記された碑の部分です。時には茶目っ気も…。

熱を込めて撮ろう

この夏「平成の鉄道」を講談社から出版しました。平成元年から31年まで撮影した写真で構成されています。その中の4章の扉に使用予定だったのがこの2枚繋ぎです。

しかし、どうせならと、平成最後の4月30日に撮影し直しました。

雨でしたが見通しは悪くなく、新宿の高層ビルも右奥に見えます。悪天候のほうが写真的ですね。おかげで印象に残る写真が完成しました。熱をこめたからこそです。
余談ですが、この写真に俳句をつけました。

”惜しみ降る 寒雨冷雨の 四月尽”

鉄道風景コンテスト審査員、広田尚敬氏による鉄道写真撮影のこだわり「熱心に撮る」いかがでしたでしょうか。撮影に取り組む姿勢や作品作りのコツなど参考にしてみてください。皆様の素晴らしい鉄道風景作品をお待ちしています。

第12回タムロン鉄道風景コンテスト開催中!

今年もタムロン鉄道風景コンテストの応募がスタートしております。
応募につきましては第12回タムロン鉄道風景コンテスト特設サイトをご覧ください。

第12回タムロン鉄道風景コンテスト

写真家プロフィール

広田 尚敬 Naotaka Hirota

1935年東京生まれ。中学時代より鉄道写真を始め、鉄道ファン同士の交流を深める。1960年よりフリーランスの写真家として活動。初個展「蒸気機関車たち」で独自の表現世界を社会にアピール。日本鉄道写真作家協会初代会長をつとめ、日本の鉄道写真界を牽引。
著作
「永遠の蒸気機関車」(日本交通公社)
「動止フォトグラフ 国鉄主要車両編」(交友社)
「ローカル線を歩く-小さな四季の旅」(小学館)など多数

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