【第11回鉄道風景コンテスト連載企画 Vol3 】鉄道風景写真撮影 プロに学ぶ機材とテクニック by 米屋 こうじ

日本をはじめ、世界の鉄道風景を撮影するため旅を続けている写真家 米屋こうじ氏が35㎜フルサイズデジタル一眼レフカメラ対応の超望遠ズームレンズと35㎜フルサイズミラーレス一眼対応の大口径標準ズームレンズを使用して、「鉄道風景」の撮影方法について作品と供に紹介しています。ぜひ、撮影の参考にしてください。

思いがけず厳しい暑さとなった初夏、緑陰に涼を求めて「わたらせ渓谷鐵道」に向かいました。わたらせ渓谷鐵道は、その名のとおり渡良瀬川の渓谷沿いを走るローカル線。渓谷に吹く風が少しは涼しかろう……という淡い期待も胸に抱きながらの訪問です。

レンズはTAMRON 100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USD(Model A035)と、TAMRON 28-75mm F/2.8 Di Ⅲ RDX(Model A036)の2本。2本ともフルサイズ対応のレンズですが、100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USDは一眼レフ用の望遠ズーム、28-75mm F/2.8 Di Ⅲ RDX はミラーレス用の標準ズームです。

望遠撮影が楽しい100-400mmでは主に列車の写真を、明るく軽快な28-75mmでは線路まわりや旅の風景を撮影しようと思います。まずは望遠ズームの100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USD(Model A035)から。

望遠端で“緑のトンネル”を狙う

この時期、わたらせ渓谷鐵道の沿線はとにかく緑一色。場所によっては木々の間をすり抜けて走ります。そんな“緑のトンネル”を狙いました。画面から余分なものを排除することを目的に、望遠端の400mmで光の当たる緑のトンネルを切り取ります。画面左側のほとんどを影にすることで、列車の居る光の部分を強調しました。この場合、露出オートのままだと暗い影の部分に合わせて全体が明るくなり雰囲気を損ねてしまうので、光の当たっている部分を測光し、マニュアルでセットするのが良いでしょう。

“前ボケ”を利用した望遠レンズらしい作画

次に色彩を求めてたどり着いたのが沢入(そううり)駅。構内には紫陽花が花を咲かせていました。絞りを開放にセット、手前からやや奥にある紫陽花にピントを置いたうえで、手前の花を前ボケで画面下に入れています。奥から駅に進入してくる列車も光のなかで程よくぼけ、より遠近感が出ました。望遠レンズらしい作画が楽しめました。

AF追従でディーゼル機関車を連続撮影


わたらせ渓谷鐵道の名物に「トロッコ列車」がありますが、「トロッコわたらせ渓谷号」はディーゼル機関車がトロッコ客車を引っぱるタイプです。ディーゼル機関車のディテールを、画面からはみ出るほどのアップで狙いました。

木々の間を抜けて、手前へ接近してくるシーンを、サーボAFによりAF追従で連続撮影。タテからヨコにアングルを変え、更にズームリングも動かしていますが、AFが素早く反応しピントが外れることはありませんでした。

“一捻り”した流し撮り

一般車両の車体側面にはシカやキジ、イノシシなど、沿線に住む動物のイラストがディスプレイされています。これも、わたらせ渓谷鐵道の特徴のひとつ。車両全体を流し撮りするのでは芸がないので、動物のイラストまわりをアップで狙い、シャッター速度を1/30秒にセットして流し撮りしました。動物が緑のなかを走っているようなカットが得られました。100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USDに装備される、手ブレ補正機構(VC)は、流し撮り用の「モード2」を搭載。流し撮りでは大敵のタテのブレを抑えてくれます。

レンズ交換なしで、至近距離撮影。

駅で何気なく目に付いた寸景、駅名標に落ちた葉っぱの影を100mmで撮影。このレンズの最短撮影距離は1.5mと近く、レンズ交換することなく撮影できるのはありがたいこと。絞りを開放にセットし、画面左手前には緑を前ボケになるよう配しています。

軽量で取り回し良く、また逆光にも強い100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USDは、信頼できる望遠ズームレンズであることを確信しました。

今回携行したもう一本のレンズはソニーEマウント用の標準ズームレンズ、28-75mm F/2.8 Di Ⅲ RDX(Model A036)。F2.8の通しとは思えない軽さで、ミラーレスのボディーとの相性も良さそうです。28-75mmのズーム域はどの焦点距離でもクセのない自然な画角。まずは鉄道のある風景を撮影しました。

水面のテクスチャーも、緻密な描写で捉える

渡良瀬川の川岸から、対岸を走る列車を望遠端75mmで狙いました。川底が透けて見える川面は周囲の緑を映し緑色に染まっていました。ヌメルような水面のテクスチャーも緻密な描写で捉えてられています。

背景をぼかして、主役をより引き立たせる


緑一色の沿線に、色彩が鮮やかな花々を見つけると引き寄せられます。夏を代表する「ひまわり」と列車を一緒のフレームに。絞りは開放値から1段絞ったF4で、列車も含めた背景をぼかしました。

ガラス越しに撮影した、柔らかい描写

駅では昔ながらの「硬券」きっぷを販売していて、やはり昔ながらの方法で“パチン”とハサミを入れてくれます。乗車券を買ったついでに、一寸お願いして手元を撮らせてもらいました。カウンターのガラス越しで撮影したので、柔らかな描写となりました。

ヘッドライトの美しいボケが、良いアクセント

地元の方々が手入れする花壇が並ぶ上神梅駅。夕暮れ時、ホームに入る列車を望遠端の75mmで撮影しました。ピントは花壇のマリーゴールドに合わせ絞りは開放のF2.8。列車のヘッドライトの美しいボケが、画面に良いアクセントを添えてくれました。

100年の歴史を目いっぱい寄って撮影


上神梅駅には大正元年に竣工した木造駅舎が健在です。駅舎の外板は100年という歳月の経年変化で木目が浮き上がっています。28-75mm F/2.8 Di Ⅲ RDXの広角端での最短撮影距離は0.19m。広角端28mmで絞り開放で目いっぱい寄って、木目の様子を撮影しました。背景のボケも柔らかくて良い雰囲気です。

夕暮れ時の淡い光。駅舎と花を入れて手持ち撮影

駅舎の細部を撮影しているとやがて夕暮れの時間に。駅前には小さな花壇があり、色とりどりの花が咲いていました。日中は駅舎との輝度差が大きいので絵になりにくいのですが、夕暮れ時の淡い光で花壇の花と駅舎を絡めて撮影することにしました。こんな時、開放値F2.8通しのレンズが心強いもの。感度をISO800にセットすれば、絞りF2.8で1/50秒のシャッター速度を確保。手持ち撮影でも問題ありません。

28mmから75mmという自然な描写となるズーム域を持ち、明るく軽量な28-75mm F/2.8 Di Ⅲ RDXは列車旅の良いお供になりそうです。

鉄道は人々や物資を運んでいるだけではなさそうです。街を走り、大自然を走り抜ける列車の姿には旅情があります。20年前は趣味人のものだった鉄道写真も、近年では写真のジャンルとしての人気が高まり、鉄道写真を楽しむ愛好者も増えてきています。そんな広がりと同調して、被写体も車両そのものから、鉄道の周囲にある全般的な事柄へと広がっているようです。

皆さんが感じる鉄道の魅力、或いは鉄道に対する思いは何でしょうか?

もしそれを写真で表現し、他人に伝えることができれば、どんなに嬉しく楽しい事でしょうか。タムロン鉄道風景コンテスト「私の好きな鉄道風景」は今年も作品募集中です。お気に入りの鉄道写真が撮れた嬉しさや、楽しさ、あなたの鉄道への思いを写真に託してご応募されてみてはいかがでしょう。

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第11回タムロン鉄道風景コンテスト

写真家プロフィール

米屋 こうじ Koji Yoneya

1968年山形県生まれ。生活感ある鉄道風景のなかに人と鉄道の結びつきを求めて、日本と世界の鉄道を撮影している。著書に新刊「ひとたび てつたび 」(ころから)、「鉄道一族三代記」(交通新聞社)、写真集「I LOVE TRAIN?アジア・レイル・ライフ」(ころから)ほか。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。

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