写真家 岡本 洋子がSP 90mm F2.8 Di MACORO を使って一味違った作品になるビフォーアフターを解説

マクロレンズで撮影した作品がいまいち、いつもと同じであまり代わり映えしないなあと思っている方、そんな悩みを持つみなさまに、“ちょっと足す”ことや“ちょっと変える”ことで一味違った作品が撮れる技を伝授します。

マクロレンズですから主役に近寄って撮ることは大得意です。しかし、いつも主役に近づいて撮っているだけでは同じような作品になってしまいます。主役を大きくクローズアップすることだけにとらわれず、主役を生かす余白や雰囲気や味付けを大切にフレーミングしてみましょう。

  1. 背景に色のボケを足す。
  2. ラップフィルムでニュアンスを足す。
  3. みずみずしさを足す。
  4. アングルを変えてみる。

以上の4つの項目について解説したいと思います。

1:背景に色のボケを足す

マクロレンズで花の写真を撮るときに、主役の花だけを見るのではなくて背景も一緒にフレーミングすると思いますが、ただ単に背景をボカして撮るのだけではなく、さらに一味違った作品を作るために背景のボケや色も意識して探してみます。

ビフォー画像


焦点距離:90mm 絞り:F/5.0 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:200

小さな白い千日紅を見つけたので、近寄って撮ってみました。日の丸にならないように、真ん中から脇へちょっとずらした位置に主役を配置して、葉っぱの緑色をやわらかくボカして背景に利用しました。

アフター画像


焦点距離:90mm 絞り:F/5.0 シャッタースピード:1/400秒 ISO感度:200

最初に千日紅を見つけて、緑色を背景に撮ったものは、主役の花をクローズアップして撮ったもの。主役に迫ってはいるのですが、背景に奥行きがなく色数も少ないのでちょっと寂しい印象に。

そこで背景に色のボケを足すことで主役を盛り立てて賑やかでファンタジーなイメージの作品に仕上げました。主役の花の位置と背景の花の色のボケがバランスよく重なるように注意してフレーミングし、背景のボケ具合を見ながら、硬くなりすぎず柔らかくなり過ぎない絞りを選択しました。

玉ボケが入ることで奥行き感が増して、さらに色がある玉ボケになったので、ファンタジーな印象になりました。タムロンSP 90㎜マクロはボケがとても柔らかく、F/2.8の開放から作品のイメージに合った絞りを選択できるのがいいですね。

2:ラップフィルムでニュアンスを足す

ラップフィルムというどこにでもある素材を利用することで、普段の玉ボケや背景に不思議な模様が入ります。どうやってこうなったんですか?って聞かれること間違いなしの、簡単で楽しい裏技を伝授します。

ビフォー画像


焦点距離:90mm 絞り:F/6.3 シャッタースピード:1/250秒 ISO感度:800

主役になりそうな黄色い花を見つけて、葉っぱの隙間から抜けてくる木漏れ日があったので、これを背景にすることで白い玉ボケが出来ました。

アフター画像


焦点距離:90mm 絞り:F/6.3 シャッタースピード:1/200秒 ISO感度:800

くしゃくしゃにしたラップフィルムをレンズフードの前につけて、白い玉ボケの中にシワシワのニュアンスを追加してみました。白い玉ボケの中がすりガラスのような、クレヨンで筋を書いたような不思議な仕上がりになりました。

アフター画像


焦点距離:90mm 絞り:F/6.3 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:800

前述のアフター画像1よりもラップフィルムの張り方をたるませて緩く張ってみました。シワが上から下に向かって入るように貼ると、画面の中にも太めの筋が上から降り注ぐように入りました。

レンズフードの前にカットしたラップフィルムを輪ゴムでつけると、その張り方によっては白くソフトフィルターをかけたようになるし、しわくちゃにしたラップフィルムを利用すると背景の白っぽい部分にシワの模様が入ります。またラップフィルムの張り方もピンと貼らずに、わざと緩みを持たせると、たるみ具合で白く濁ったり、細いラインが入ったり、すりガラスのようになったりと様々なニュアンスになります。

また貼り方が違えば、2度と同じ模様にはなりません。ラップフィルムを利用した撮影では偶然性や遊び心がある作品作りが楽しめると思います。広角系のレンズでは効果がわかりづらいので、90㎜という焦点距離のマクロレンズはこれを楽しむのにぴったりのレンズだと思います。

3:みずみずしさをプラス

晴れた日に撮影に行くのは心地よく楽しいですよね。でも撮った写真がありきたりだなあと感じたことはありませんか?そんな時は天気の悪い日、くもりや雨の日にあえて撮影に出かけましょう。普段と違った雰囲気の写真が撮れること請け合いです。花や植物は、雨の日や雨上がりにはしっとりとみずみずしい表情を見せてくれるからです。

ビフォー画像


焦点距離:90mm 絞り:F/4.0 シャッタースピード:1/2500秒 ISO感度:100

天気のいい日に赤やピンク色のヒャクニチソウの花を撮りました。強い日差しでコントラストも強く、影の部分も出来て硬いイメージになってしまいました。

アフター画像


焦点距離:90mm 絞り:F/7.1 シャッタースピード:1/400秒 ISO感度:400

特に赤い色の花は、天気のいい日、強い日差しの下で撮ると色飽和を起こしやすく、質感を出すのが難しい色です。日差しのない雨の日や曇天の日は色飽和が起きにくくなり、色の諧調やディテールを残して赤いダリア本来の印象で撮ることが出来るのです。

また雨降り後には水滴がついて、花はしっとりと生き生きとしています。晴れた日以上に雰囲気のあるみずみずしい作品になりました。雨の日は機材もなるべく濡れないように気を使いますが、防塵防滴機能のついたSP 90mmなら安心して使えます。雨が降ったら喜んで撮影に出かけましょう!きっと晴れた日以上に素敵な作品が撮れるに違いありません。

4:アングルを変えてみよう

花の写真を撮るときに、立ったまま花を見下ろして撮ると主役の花の後ろが葉っぱや地面だったりします。そうすると、背景もボケにくく、ごちゃごちゃします。また緑色が背景という代わり映えのしない絵柄になることもしばしばです。そんな時はアングルを変えてみましょう。たとえば晴れた日の青空だったら、ローアングルで狙って下から撮ってみると背景に変化がつきます。

ビフォー画像


焦点距離:90mm 絞り:F/4.5 シャッタースピード:1/800秒 ISO感度:100

ピンク色の主役の花をやや見下ろす角度で花芯がきれいに見えています。花を置く場所を3分割上において花が向いた空間を開けるという、セオリー通りにフレーミングしています。安定はしていますが背景も葉っぱの緑でやや面白味に欠ける写真になってしまいました。

アフター画像


焦点距離:90mm 絞り:F/5.6 シャッタースピード:1/3200秒 ISO感度:400

主役に対するアングルを変えることで背景が大きく変わります。背丈の低い花はどうしても花を見下ろして撮ることが多くなりますが、そうすると主役のすぐ後ろに葉っぱや地面があってどうしても背景がごちゃっとなる場合が多いです。あえて空を背景にするようにローアングルから狙ってみると背景もすっきりし、花びらも透けて質感が描写できます。また空だけでなく、緑の森だったり、建物だったり、遠景の要素がボケて背景になることで面白い味付けが出来るでしょう。

まとめ

マクロレンズでの撮影も主役を探してただアップで撮るだけではなく、“ちょっと足す”や“ちょっと変える”という一工夫で、普段と一味違った作品になります。タムロンSP 90mmマクロレンズは小さな被写体にも近寄って狭い範囲で撮れるレンズなので、画面を整理しやすいという反面、代り映えのしない、面白味のない写真になってしまう可能性もあります。画角の中の構成要素を積極的に上手く利用することが出来れば、主役を盛り立てるいい脇役として作品を彩ってくれることでしょう。みなさんの工夫次第で、一味も二味も違った素敵な作品を撮りましょう。

第15回 タムロン・マクロレンズ フォトコンテスト:岡本 洋子氏からのメッセージ

写真家プロフィール

岡本 洋子 Yoko Okamoto

東邦大学生物科を卒業。12年間の会社勤務の後、日本写真芸術専門学校入学、卒業後は秋山庄太郎氏のアシスタントを務め、独立フリーへ。現在、花や植物、風景を主に撮影。花の写真教室“こだわり花クラブ”を主宰し、東京近郊の公園等で撮影会を開催。各種撮影会やカメラメーカ主催の写真教室講師、2014年から女子美術大学の非常勤講を務める。写真雑誌へ記事寄稿多数。日本写真協会会員(PSJ)日本自然科学写真協会会員(SSP)

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