【私たちのレンズストーリー #02:SP 35mm F1.4】不可能を可能にする新たな発明「ダイナミックローリングカム」

私たちが生み出してきた大切なレンズや技術をひとつひとつの物語としてお届けする「レンズストーリー」、第2回目は「究極の写り」を追求して私たちがリリースした、SPシリーズの最新レンズTAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)の機構部分に迫ります。
私たちが35mm F1.4の単焦点レンズとして目指した「究極の写り」には、ポートレートを引き立てる美しいボケ、豊かな階調表現をはじめとする描写面での「究極」が存在する一方で、この描写を得るためには、カメラを構え、ファインダーを覗き、構図を決めて、ピントを合わせ、シャッターボタンを押すという一連の所作があります。
でも、いい写りをするのに思うように動作しなかったら?
このレンズを手にして、「究極の写り」を体感するより前に少しでも気分が高まらない要素があったとしたら、それは私たちの目指す「究極」ではなくなってしまいます。
すべては「究極の写り」を実現するために
このレンズを作ろうと決めたとき、F1.4という開放値、レンズの構成、求める描写性能など、製品の企画の概略がまとまった段階で、「このままでは10群14枚という重厚な構成のため、求めるスピードでフォーカスが動かない」ということが分かりました。
「レンズを製品化するために何ができるか?」
- 光学(レンズをもっと軽くできないか?)
- 電子(モーターのパワーは上げられないか?)
- メカ(作動負荷を減らせないか?)
今のままでは動かないフォーカス機構を動かすため、各部署が知恵を持ち寄り考えました。
本レンズの最大の魅力である「究極の写り」を実現するために、描写力を妥協することはできない。そこでメカ設計者に与えられたのが光学性能を維持しつつ、どんな条件下でも変わらず軽く、作動負荷を低減する機構を新たに開発すること。
この命題を抱え、数ヶ月のトライアンドエラーを繰り返して生まれたのが「ダイナミックローリングカム」です。
不可能な事象への飽くなき挑戦
発明には、ふたつの種類があると考えています。
ひとつは「より良くする」、そしてもうひとつは「不可能を可能にする」
というものです。ダイナミックローリングカムは後者ということになります。
世の中では、物を滑らかに、かつ軽く動かすために、ボールベアリングが使われていて、今回はここからヒントを得ました。しかし、耐久性や精度、駆動音の大きさなど、レンズに組み込むことで発生する問題をひとつひとつ解決していかなければなりませんでした。
また、レンズという限られたスペースの中、素材を変え、部品の精度を極限まで追い込み、最後には組み立ての精度も上げる必要が出てきました。
初めての機構であるため、慣れるまでは組み立て方だけでなく、調整工程も増えるからです。そのため、新たな作業の必要性を説き、組み立て作業者に納得してもらうことも必要でした。このレンズの開発に関わる全ての設計者は全員、工場での組み立て作業の指導に赴き、実際に組み立てて確認もしました。
工場に入り、試行錯誤した一ヶ月。「しっかり組み立てができれば実現できる」という手応えをついに得ることができました。ダイナミックローリングカムがついに完成したのです。
ダイナミックローリングカム機構模式図
ダイナミックローリングカムは「どんな条件下でも、重いものを動かし、作動負荷を軽く」します。
ただ、それだけです。
ダイナミックローリングカムが入っていることが分からない、つまり何も意識させることなく、それが「普通」だと思って使っていただけることがいちばんなのです。
ダイナミックローリングカムは、重く動かなかったものを滑らかに動くようにし、当初不可能だと思われたことを可能にするタムロンの発明です。
レンズにおいていちばん大切なのは「写り」。光学設計が大切なのは言うまでもありませんが、メカ設計とのハーモニーも大切なポイントとなります。
「心地良さ」や「使い勝手の良さ」という、数値化できないけれど、ユーザーが感覚としていちばんに捉える部分をダイナミックローリングカムが支えています。「究極の写り」の一方で、このレンズの「究極の操作性」の一翼を担う発明であることは間違いありません。
そして、これが私たちタムロンの考える「フォトグラファーズ ファースト」でもあるのです。
ユーザーの感覚に寄り添うダイナミックローリングカム
もし、ダイナミックローリングカムがなかったら?
『TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)』において、そんなことはあり得ないのですが、もしかするとこのレンズはリリースされなかった……かもしれません。
一度使うと手放せなくなる。
ユーザーにとって、そんな存在のレンズになるために「究極の写り」を支える新しい技術は生まれてきたのです。
SP 35mm F1.4を手にしたとき、こうした思いで生み出されたダイナミックローリングカムにほんの少し想いを馳せていただけたら、作り手としてこんなに嬉しいことはありません。

レンズ製品名: SP 35mm F/1.4 Di USD(Model F045)
発売日:ニコン用:2019年6月26日 キヤノン用:2019年7月25日
希望小売価格:126,500円 (税込)
ニュース: SP 35mm F/1.4 Di USD(Model F045) プレスリリース
製品ページ: SP 35mm F/1.4 Di USD(Model F045)製品ページ
私たちのレンズストーリーの記事一覧
【私たちのレンズストーリー:SP 35mm F1.4】「記録」を「表現」に昇華する一本を生み出したタムロンのポリシー
「私たちのレンズストーリー」はSP40周年記念モデルとして、最高の性能・描写にこだわったTAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)を生み出した開発ストーリーを綴っています。
TAMRON MAG SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)の記事一覧
写真家 澤村 洋兵がタムロン SP 35mm F/1.4 (Model F045)でポートレート。開放で京都の夜の街を攻める。
写真家 澤村 洋兵氏によるTAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)インプレッションです。京都の夜を艶やかに写し撮ったポートレートを是非ご覧ください。
写真家 秦 達夫氏が大口径レンズ タムロンSP 35mm F1.4 (Model F045)で雪深い山々の冬景色を撮影。
写真家 秦達夫氏によるTamron SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)のインプレッションです。大口径の単焦点レンズ1本で魅せるバリエーション溢れる冬景色をご覧ください。
写真家 中藤 毅彦氏がタムロンSP 35mm F/1.4 でキューバの街並みやスナップを撮影。未公開カットを含む全12カットを公開
写真家の中藤 毅彦氏がTAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)で撮影したフォトギャラリーからの未公開カットを含む全12カットのキューバの街並みやスナップ作品をご紹介します。
写真家Thomas Kettner氏がタムロンSP 35mm F/1.4 でモデルや風景を撮影。未公開カットを含む全15カットを公開
写真家のThomas Kettner氏がTAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)で撮影したフォトギャラリーからの未公開カットを含む全15カットのポートレートとスナップ作品をご紹介します。
写真家 黒田 明臣氏がタムロン SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)でポートレート「はじめからそこにあったもの」を撮影
タムロン SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)の高い描写力を軸に、タムロンが長年掲げてきたレンズに対するコンセプトにも迫るインプレッションです。優れた諧調性や解像感、描写力を活かして、黒田氏の思いとともに切り取った作品をご覧ください。
写真家 阿部 秀之氏がタムロンSP 35mm F/1.4でヨーロッパの風景と建築美を撮影。全15カットを公開
写真家 阿部 秀之氏がヨーロッパを訪れて出会った風景や建築美を、35mm判フルサイズデジタル一眼レフカメラ対応の単焦点レンズ、タムロンSP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)で撮影した15作品をご紹介いたします。
夜景写真家 岩崎 拓哉氏がタムロンSP 35mm F/1.4 (Model F045)で神戸の夜景を撮影
夜景写真家の岩崎 拓哉氏がTAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)で撮影した神戸の夜景撮影をご紹介します。
写真家 若子jet氏がタムロン SP 35mm F/1.4 Di USD(Model F045)で撮る故郷。
全12カットを公開
写真家 若子jet氏が、TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD(Model F045)で撮影した旅スナップ作品をご紹介します。
写真家 杉本 優也氏がタムロン SP 35mm F/1.4 (Model F045)で写す#嫁グラフィー
写真家 杉本 優也氏が、TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045)で#嫁グラフィーをテーマに撮影したインプレッションです。35㎜の自然な距離感で写し止めたポートレート作品をご覧ください。