自然写真家 石井 孝親がマクロレンズSP 90mmでありのままの自然の姿をストレートに捉えたネイチャーフォト

タムロン・マクロレンズ フォトコンテスト「ネイチャーの部」の審査を担当させて頂いて今年で3回目になりました。身近な足元の小さな自然をテーマに活動している、マクロの伝道師・石井 孝親です。

第12、13回と「ネイチャーの部」の審査を担当して思ったことは、花ならコスモス、チューリップ等、昆虫ならアゲハチョウ、アカトンボ等、「フォトコンテストの定番」という被写体が多く、「もう少し視野を広げ里山などに行けば、もっとフォトジェニックな花、昆虫など被写体は沢山あるのになあ!」ということです。

ネイチャーフォトの醍醐味は、自然と触れ合いながら野山を歩き、被写体を発見して「ありのままの自然の姿」をカメラに収めることです。花や昆虫は被写体に直接触れて演出しやすいのですが、童心に返り野山を歩き被写体を探せば、自然の神秘や造形的な自然の美しさに気づく筈です。

演出する技術を磨くのではなく、「被写体の生態」「光の生かし方」「フレーミング」等の被写体と撮影技術の両方を学ぶことが大切です。

ありのままの自然の姿を撮影して気に入った写真が撮れた時の「よし、良いのが撮れたぞ!!」という満足度を皆さんにも味わってもらいたい。ありのままの自然の姿を、ストレートに捉えた写真の応募を期待しています。

一枚目の写真( 焦点距離:90mm 絞り:F/5.6 シャッタースピード:1/100秒 ISO感度:800 +0.3補正)

若葉を広げたモミジの葉下に、とても小さくて目立たないけど、可愛らしい花が沢山咲いていることに気づきました。開放撮影ではモミジの葉がボケてしまうのと背景が単調になりすぎるので、開放から2段絞ってF/5.6で撮影することで背景に玉ボケを散りばめました。

円形絞り採用のレンズなので、玉ボケも美しい。「マクロレンズ = 開放」の図式では写真が単調になります。初心者の方は撮影時に毎回、絞り値を段階的にF/2.8・4・5.6・8・11と変えて撮影して描写の違いを比べてみると良いです。


光のリズム(ネモフィラ)

焦点距離:90mm 絞り:F/4 シャッタースピード:1/2000秒 ISO感度:400 -1.0補正

ネモフィラの写真はハイキー調の明るめの写真は一般的すぎて面白くないので、朝露がうっすらと花びらとカーブした茎に残ったポイントに着目して、造形的にフレーミングしてみました。暗い背景の場合、無補正だと暗い背景に露出がひっぱられてシャッタースピードが遅くなり、肝心の花が白っぽく露出オーバーに写ってしまうので、-1.0EV補正して撮影しました。画面隅に玉ボケが入る場合、開放撮影では口径食の影響で玉ボケがレモン型になりがちです。これを防ぐ為に1段絞り、F/4で撮影しました。


朝の出来事(朝露をまとったタンポポの綿毛)

焦点距離:90mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/200秒 ISO感度:400 +1.3補正

朝露で輝く野原の片隅でタンポポの綿毛を見つけました。しゃがんでマクロレンズで覗いてみると、綿毛にキラキラと朝露が輝いて、まるで宝石のような輝きでした。ピントを合わせた朝露の付いた綿毛をシャープに見せる為と、被写体全体がタンポポの綿毛であることを分かりやすくする為に絞り値をF/8にして撮影しました。タンポポの白い綿毛を撮影する時は、ハイライトに少し白飛び警告表示が出始めるくらいの露出で撮影しています。
私はフィルムカメラ的な撮影方法で、レタッチは必要最小限に心掛けています。


林の番人(マムシグサ)

焦点距離:90mm 絞り:F/4 シャッタースピード:1/30秒 ISO感度:400 +1.0補正

林に咲くマムシグサは、蛇が鎌首をもたげているような姿をしている為にカメラを向ける人は少ないのですが、正面から狙い透過光を生かして少し引き気味に写すと、グロテスクな花の感じは消えます。引き気味にすることで背景が生きてくるのですが、F/4に絞り口径食を緩和して美しい玉ボケを画面全体に散りばめ、針葉樹をバランスよく配置しました。フレーミングを決める時は、被写体だけに集中しないで、画面全体で決めることが大切です。尚、ファインダー内ではF4に絞っても開放のF2.8の状態で見えるので、プレビューボタンを押してF4のボケを再現して確認しています。


一滴の命(ムラサキツユクサと朝露)

焦点距離:90mm 絞り:F/11 シャッタースピード:1/50秒 ISO感度:1600 +0.7補正

ムラサキツユクサの美しさを生かす為には、朝露と対比させる為に早朝に撮影することが大切です。今にも「ポロッ」と朝露が落ちそうな状態だったので、三脚をセットしている余裕はなく手持ちで撮影しました。ピントは「点ではなく面」で合うので、二つの朝露とツユクサがカメラと平行になるカメラアングルを丹念に探して撮影しました。

朝露の質感を最大限に生かす為にF/11まで絞りこんで撮影してシャープに捉えました。手ブレする目安は「1/焦点距離」なのですが、1/50秒の低速シャッターでも手ブレはしませんでした。これも角度ブレ、シフトブレの両方に対応した強力な手ブレ補正機構「VC」を搭載しているからです。風などによる被写体ブレが全く無い状態なら、1/15秒前後の低速シャッターでも手持ちで撮影可能の、私イチオシの高性能マクロレンズです。


妖精の微笑み(ユウゲショウ)

焦点距離:90mm 絞り:F/4 シャッタースピード:1/500秒 ISO感度:400 +1.0補正

ツキミソウの仲間の「ユウゲショウ」ですが、昼間花を開いています。背景にアクセントとして入れた玉ボケは、背景にある朝露がボケたものです。この写真のポイントは、花と滴の両方にピントが合っているところで、ムラサキツユクサの写真と異なり絞り値はF/4と被写界深度は極めて浅いので、シベと滴の中に映りこんだ風景の両方にピントを合わせるのが難しかったです。ピントは「点」ではなく「面」で合うのです。

一味違った写真を写したいのなら寝坊は禁物です!夏場の日の出は4時30分前後なので、近所の里山に行く時でも3時30分には起きています。もう何度も書いていますが、「早起きは三文の徳」どころではなく「早起きは百文の徳」です。

皆さん、早起きして良い写真をゲットしてください!

TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACROを使用してみて

SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD(Model F017)を使って1年以上が経ちましたが、角度ブレ、シフトブレの両方に対応した手ブレ補正機構「VC」はかなり強力で、足場が悪く三脚が使えない時に有難さを実感します。私は朝露をまとった野原で撮影することが多いのですが、レンズ本体に水滴が付いた状態でピントリングを回しても、レンズ内に水分が入って故障したことは無いので、「防塵防滴構造」の効果も高く、しっかりとフィールドでプロの酷使に耐えてくれます。

皆さんも新型タムロン90mm F/2.8マクロ(F017)を持って野山を歩いてみましょう!

写真家プロフィール

石井 孝親 Yoshichika Ishii

1967年9月、横浜生まれ。東京写真専門学校卒業後、写真館勤務。
2000年4月から自然写真家として活動開始。現在、身近な足元の自然をテーマに、写真展、写真雑誌、カレンダー等で幅広く活躍中!
写真集に「光と彩の季節・日本カメラ社」、花撮影の技術書に「光を生かす花撮影術・日本カメラ社」など。自ら主宰する「フォトクラブ光と彩」で横浜、東京にてアマチュア写真家の指導にも力を入れている。

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高い光学性能を継承しながら、手ブレ補正機構「VC」の性能向上を実現