写真家 小林 義明が超望遠ズームレンズSP 150-600mm G2で春の気配を感じ始めた道東のいきものたちを撮影

2017年の冬はマイナス20℃以下になる日も多く、コンスタントに寒かった。そのため3月末になってもけっこう雪が残っていて、タンチョウの給餌場も冬の景色となっていた。
それに、冬本番ではあまり姿を見られなかった流氷も、そろそろ去ってしまうと思われた頃になって、たくさん根室海峡に流れこんできてびっくりした。そのおかげでいつもと違う景色も見られ、楽しい撮影になった。
この撮影で使った、超望遠ズーム150-600mmの第二世代モデル「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2(Model A022)」(以下、A022)は、いま心底惚れ込んで使っているレンズで、今現在、完璧といえる性能を持った超望遠ズームレンズに仕上がっていると感じている。別にタムロンに頼まれてそう言っているのではない。本心からそう思っている。
一枚目の写真( 焦点距離:450mm 絞り:F/7.1 シャッタースピード:1/1600秒 ISO感度:800 +1.7補正)
春が近づいてきてエゾリスの活動も活発になった。真冬の寒い時期は日の出の頃に食事をすると巣に戻ってジッとしているため姿が見られなくなることが多かったが、久しぶりに見に行くと、子育ての準備も始めているのか、あちこちに移動して雪原の上を走り回る姿も見られるようになっていた。エゾリスの動きは俊敏で、走っているシーンを撮るのはなかなか難しい。なぜかといえば、飛行機や列車のように離れていて大きな被写体を撮影するのと違い、小さな被写体を10m程度の距離で追わなければいけないからだ。それはカメラマンにとっても、機材にとっても数段難しい撮影となる。だが、このA022では、あっけなく撮影することができた。この撮影では、カメラボディも動体撮影性能の優れたものを使っていて、これまでなかなか撮れなかったシーンがあっけなく撮れてしまうのだ。潜在的にA022の動体撮影性能はかなりものがあると実感した瞬間だった。レンズの性能をフルに発揮させるには、ボディを選ぶ必要もあるようだ。
焦点距離:150mm 絞り:F/8.1 シャッタースピード:1/1600秒 ISO感度:400 +1補正
春がやってくればハクチョウたちもシベリアに帰って行く。そう、北帰行が始まるのだ。屈斜路湖では冬の間は水面の開いているところに集まってきて観光客に餌をねだるのだが、雪融けが始まった畑にも出かけるようになり、夕方にはまた湖に帰ってくる。このシーンもそのときに撮影したもので、夕陽が沈んでしまうと思っていたら、10羽ほどの群れが畑から帰ってきた。慌ててカメラを構えて撮影したなかのワンシーンで、太陽が画面に入るような逆光であったが、連写した一連のカットはしっかりとピントが追従していて、しかもフレアの発生もなく、シャープに捉えることができた。ズームだからこそのフレーミングで捉えられた一枚だ。
焦点距離:600mm 絞り:F/11 シャッタースピード:1/400秒 ISO感度:200 +0.7補正
オホーツク海に近い濤沸湖。海に流れ込む河口付近の氷に閉ざされていた湖面が融け始め、ハクチョウやホオジロガモの姿が見られるようになった。ホオジロガモの求愛ディスプレイはなかなかユーモラスな動きで見ていて楽しい。鳥インフルエンザの影響であまり観光客のないシーズンで、こちらに興味があったのか群れから離れて近づいて来たホオジロガモのオスにレンズを向けると、気配に気がついたのか飛び上がった。飛び上がるときはハクチョウと違い予備動作があまりないのでとっさのシャッターチャンスとなるが、この瞬間もみごとにA022は捉えてくれた。VCの流し撮りモードも安定していて、流し撮りがきれいに決まった。
焦点距離:600mm(クロップ) 絞り:F/8 シャッタースピード:1/1250秒 ISO感度:800 -0.3補正
雪の積もった森のなかを歩く。目的はエゾモモンガ。本来は夜行性だが、春の繁殖期になると日中も活発に活動するようになり、運が良ければその愛らしい姿を見ることができる。この日も天気が良く小春日和といえるような暖かい日だった。エゾマツの森を歩いていると、根元にはたくさんの松の葉が落ちていた。これはエゾモモンガが松の芽を食べた跡。そっと上を見上げると、松の枝が揺れている。かなり高いところだ。カメラを構えて600mmにすると、モモンガの愛らしい顔が見え隠れしている。モモンガがこちらを見た瞬間を狙ってレリーズした。A022はレンズがコンパクトなので雪の中を歩くようなときにもかさばらず機動性が高い。移動中はレンズが伸びないようにズームリングをスッと前にスライドさせるだけでズームリングを固定できるのも便利だ。このズームリングのロック機構は、どの焦点距離でもロックできる優れものだ。
焦点距離:600mm 絞り:F/7.1 シャッタースピード:1/1000秒 ISO感度:800
最近人気者のシマエナガ。わざわざこの小さな小鳥を探しに本州から北海道にやってくる人もいるようだが、なかなか出会うのは難しい。どこにでもいるけれど、いつも会えるわけではない。この日も森を歩いていると、カラの群れがやって来て賑やかになった。シマエナガもカラの群れと一緒に行動することが多く、数羽の群れはあちこちで食べ物を探しながら右へ左へと移動していく。小鳥を撮影するときは、移動していく先でジッと待っているのが一番効率がいい。よく追いかける人がいるけれど、それは逆効果で、逃げられてしまうことが多い。このときもジッとしていると目の前にあるヤマブドウの蔓にとまってくれた。驚かさないように、そっとカメラを構えて撮影させてもらった。
焦点距離:320mm 絞り:F/9 シャッタースピード:1/1250秒 ISO感度:800
春になり雪融けが進むと、タンチョウたちは営巣のため給餌場から自分たちの縄張りへと帰っていく。タンチョウの寝床として多くのカメラマンで賑わっていた鶴居村の音羽橋もいまは静かになり、ひっそりとしている。昨春に生まれたタンチョウの幼鳥はまだ幼い姿をしているが、親と別れて独立の時期をむかえている。このタンチョウも独立したばかりで、数羽の幼鳥と一緒に行動する群れを作っている。橋の上からタンチョウ立ちを見ていると、春の光にきらめく川面の中にポツンと立っていた。独立した誇らしさと親と別れた寂しさと、いろいろな感情が一緒に見えるような気がした。来年の冬には、大人と変わらない姿になって元気に戻ってきて欲しい。
焦点距離:550mm 絞り:F/11 シャッタースピード:1/800秒 ISO感度:400 +1.3補正
もう海明けするものだと思っていたら、根室海峡に大量の流氷が入って来た。野付半島にもたくさんの氷が接岸して、はじめて見るような見事な姿を見せてくれた。気温が上がり海岸の雪が融けると、エゾシカが食べ物を求めて海岸までやってくる。なかには打ち上げられた海草を食べているものもいるようだ。流氷と一緒にシカの姿を撮影しようと狙っていたら、キタキツネがやってきた。キツネも食べ物を探していて真剣だ。シカもキツネもお互いを気にすることなく、それぞれのやるべきことをやっていた。子供が生まれれば子供を守るためにお互いが近づけば威嚇やケンカも起きるのだが、いまは食べることが一番のようだ。一見ほのぼのとした景色だが、生きるための真剣な時間が流れていた。
焦点距離:340mm 絞り:F/7.1 シャッタースピード:1/1000秒 ISO感度:1600
毎年春になるとやってくる嵐。春は天候が変わりやすいためにドカッと雪が降ったり吹雪いたりとなかなか大変だ。春の雪は湿っていて重いうえに、一気に積もりタチが悪い。数年前には近所で車が閉じこめられて死亡事故が起きるなど大変だった。だが、そんな厳しい気候であっても野生のいきものたちは自分の力だけで生き延びている。このハクチョウも吹雪の中ジッとしていたせいで、羽毛には湿った雪が張り付いてしまっているが、そんなことを気にするそぶりもなく元気だった。強い風を受けると大きめなレンズはホールディングするのも大変なのだが、VCがしっかりとブレを抑えてくれて、安定した撮影ができた。風が強いときは、VCはモード1にしておくのがオススメだ。ファインダー像が安定するのでAF動作もスムーズになり、撮影しやすくなる。
いきものを撮影するときにいつも心がけていることは、撮るのではなく撮らせてもらうという気持ち。できるだけストレスを与えないで自然な姿を見せてもらえるように気をつけている。それにはある程度離れたところから撮影するのが理想的で、特に人に慣れていないいきものなら、どれだけ距離を離しても離れすぎることはない。
なので、A022とAPS-Cセンサーモデルの組み合わせは、生きものを撮影するのに最適だと考えている。高感度の撮影ではフルサイズの方が有利なことは分かっているが、画角が広くなる分、あと一歩近づこうとしたことでいきものにストレスを与えてしまう可能性があるのなら、若干ノイズが増えたとしてもAPS-Cの方がより自然で生き生きとした、いきものの表情を見せてもらえると考えている。私の存在をいきものが意識していないのが理想なのだ。
SNSやブログなどで自然のいきものたちの姿を見て、動物園の動物のように撮影しようとしている人が増えている。彼らは人間に慣れていないので、ストレスを与えれば姿を見せてくれなくなる。遠くから来たのだからどうしても撮影しなければいけないのではなく、今姿を見せてくれないのはまた来いと行っているのだというくらいの大きな気持ちを持って被写体に接して欲しい。
このレンズを使うことで、ちょっとでもそんな気持ちでいきものに接してくれる人が増えたらうれしいと思う。
SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2を使用してみて
このレンズを使っての撮影はとても軽快なのだ。
なんといっても、望遠側に特化したズームはいきものの撮影に便利で手放せないものになっている。画質だけを考えれば単焦点レンズには敵わないものの、それ以上にズームで手持ち撮影とコンパクトさという大きなメリットがある。いきものはジッとしているわけではない。それは常に撮影距離が変化することを意味する。単焦点レンズではいきものが近付いて来たときは、撮影を諦めるか急いで他のレンズが付いたカメラに持ち変える必要があったが、A011/A022なら、ズーミングするだけで適切な構図で撮影できるのだ。(*A011はA022の前モデル)
数少ないシャッターチャンスを確実に捉えられる。それは何よりも大きなメリットとなる。
そして、先代のモデルA011に要望した
1:600mm側の解像力
2:AF速度
3:手ブレ補正の効果
4:流し撮り性能
5:三脚座の扱いやすさ
といった項目の性能向上に加え、
6:ズームリングの固定機構の工夫
などすべてに渡って進化があり、いまのところ不満を感じる点はない。
実に満足度の高いレンズなのだ。
写真家プロフィール

小林 義明 Yoshiaki Kobayashi
1969年東京生まれ。2006年より北海道へ移転し、「いのちの景色」をテーマとして取材を続ける。マクロから風景、野生動物と幅広く自然の優しさを感じられる作品を発表している。2017年4月にはリコーイメージングスクエア新宿にて写真展「光の色・風の色2」を開催。写真集に「いのちの景色 釧路湿原」。