デザイナー 吉竹 遼氏がタムロン35mm F2.8 (Model F053)で撮る京都・舞鶴

みなさま、初めまして。吉竹遼と申します。ふだんはスマートフォンアプリやウェブサービスのUI / UXデザインの仕事をしている傍ら、写真撮影を楽しんでおります。レンズのレビューということでフォトグラファーからの寄稿がほとんどのTAMRON MAGでは異質かもしれませんが、新しい視点をお届けできましたら幸いです。

さて、今回お借りしたレンズはTAMRON 35mm F/2.8 Di III OSD M1:2 (Model F053)。ハーフマクロも撮れる単焦点として、20mm (Model F050)と24mm (Model F051)と合わせて三兄弟の愛称で呼ばれる事もあるようです。ちょうど京都に行く予定があったので、ソニーα7R IIIに装着して一緒にお出掛けしました。

一枚目の写真( 焦点距離:35mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/640秒 ISO感度:200)

35mmとどう向き合うか

実のところ、僕は広角域のレンズってどうにも苦手意識があります。自分の撮影スタイルが、望遠レンズで風景の一部を抽象的に切り取ることであるため、広角レンズで目の前にひろがる光景をフレーミングしてシャッターを切る、という行為になかなか慣れないんですよね。自分にとっては85mmが標準域として染み付いているのです。なので今回の旅行には、自分と35mmという焦点距離の向き合い方を探る側面も持ち合わせていたりします。

焦点距離:35mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/500秒 ISO感度:100

今回やってきたのは京都、舞鶴。最近、京都旅行の折には北部にも足を運ぶ機会が増えたのですが、京都市内の町並みとはまた違う魅力があって好きな地域です。初めて見る港町の光景に心を踊らせながらシャッターを切っていきました。なお、カメラ側の設定で倍率色収差補正と歪曲収差補正はオンにしています。

身体の動きにレンズを重ねる

焦点距離:35mm 絞り:F/9 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:200

吉原入江。ボートや屋根瓦、木々の枝に山々など、細かな被写体の多い一枚ですが、F9まで絞ったおかげもあり、しっかりと写してくれました。フォーカスの精度をさらに高めたい場合は、DMFやMFの使用がおすすめです。

焦点距離:35mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/500秒 ISO感度:100

陸と海の境目。ふだんはこういった平面構成的な写真をよく撮影しています。開放でもビシッと解像してくれるので、ボケとのコントラストを探りながら撮るのも楽しいですね。

焦点距離:35mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:200

舞鶴の東側に行くと、有名な舞鶴赤れんがパークがあります。芝生とのコントラストが綺麗です。

焦点距離:35mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/80秒 ISO感度:200

レンズ特性を活かした寄りの一枚。気になる被写体を見つけたら、そのまま近付いて撮れるのがハーフマクロのいいところ。

……と、ここまで35mmという焦点距離を扱ってみたわけですが、ふと、撮影しているときの体の動かし方が、ふだんとは異なることに気が付きました。あ、これは自分の目と身体の延長線上の動きだ、と。

85mm~200mm付近の焦点距離を好む自分にとって、レンズは身体の拡張に近い感覚です。自分の目では捉えられない光景を写してくれる道具。魚眼レンズや高倍率マクロレンズにも同じ感覚が当てはまります。

一方、35mmは人間の視野角に近い焦点距離です。しかもこのレンズ35mm F2.8はハーフマクロですから、目の前に広がる景色をぼうっと眺めたり、かと思えば気になる被写体にぐいっと近づいたりといった、日常生活の中で何気なくおこなっている身体動作に撮影を重ねることができます。

思い返すと、単焦点レンズの扱いにおいて「足で稼ぐ」とよく言われますが、あれはフレーミングだけではなく身体感覚も含めた話かもしれないな、と自分なりに合点がいきました。

好奇心のリズム

となると、このレンズとの付き合い方は「機材を持っているぞ」「撮るぞ」という意識先行ではなく、いつもどおりに目の前の世界を楽しんで、心に引っかかる瞬間や被写体に出会ったら素直にシャッターを切るほうが合っているのではないか。

そんなことを帰路の電車内で考えながら、舞鶴から京都市内に移動。実のところ舞鶴では「撮らなくちゃ!」という意識が強かったのですが、ここから先は肩の力を抜いて撮れた気がします。

焦点距離:35mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:100

近畿地方と言えば?飛び出し坊や。道端を歩いて、目に入った面白いものに近づいて、シャッターを切る。好奇心のリズムに35mmが素直に応えてくれました。

焦点距離:35mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/80秒 ISO感度:100

レトロスタイルな電灯。金属の冷たさと灯りの暖かさが綺麗に描写されています。

焦点距離:17mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/125秒 ISO感度:200

フォーカスリングは軽すぎず重すぎず、適度に指についてくれるので、カメラのピント拡大機能と合わせれば、マニュアルフォーカスでもスルッと撮れます。

TAMRON 35mm F/2.8 Di III OSD M1:2 (Model F053)を使用してみて

単焦点、特に広角~標準域のレンズは、近年のスマートフォンのカメラ性能の向上によってこれまで以上に存在意義が求められている……なんて話は、ここで改めて書かなくても多くの方が感じているのではないかと思います。いわゆる「スマホで十分」とどう共生するか・できるか、という話ですね。

単にスペックを押し出すだけでは、スマートフォンユーザーには「でもカメラは高いし重い」と思われてしまうし、カメラユーザーには「スマホでも代替できる」と思われてしまう。難しい焦点距離だと感じます。

だからこそメーカーはプロダクトに物語を込めて伝える努力が必要で、ユーザーはそれを受け取り自分にフィットする製品かどうか(=これは私のためのものなのか?)を見極めることになります。

改めて35mm F2.8の製品ページを眺めてみると、「いつもの日常に、新たな発見を」「このレンズから、発見にあふれる毎日が始まります」といった言葉が並んでいることに気が付きます。

これはまさに、今回の旅において、自分が35mmとの関係性を探る試みの過程で体験したことと重なります。

「表現」以上に「発見」を語るレンズ。TAMRON 35mm F/2.8 Di III OSD M1:2 (Model F053) は、スペックシートだけでは見えてこない体験に出会いたい方のための、良き1本となるでしょう。

写真家プロフィール

吉竹 遼 Ryo Yoshitake

フェンリル株式会社にてスマートフォンアプリの企画・UIデザインに従事後、STANDARDへ参画。UIデザインを中心に、新規事業の立ち上げ・既存事業の改善などを支援。2018年よりデザインとして独立後、THE GUILDにパートナーとして参画。近著に『はじめてのUIデザイン』など。東洋美術学校 非常勤講師。

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タムロン 35mm F/2.8 Di III OSD M1:2 (Model F053)

ミラーレス専用設計のソニーEマウントレンズシリーズに単焦点35mmが登場。Model F053はF/2.8と大口径でありながら最短撮影距離0.15mまでの近接撮影が可能。被写体が引き立つ美しいボケを楽しむことができます。

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