写真家 別所 隆弘氏がタムロン 28-75mm F2.8 Di III RXD (Model A036)で撮る晩秋の風景

一枚目の写真( 焦点距離:28mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/50秒 ISO感度:100

無人島に行くとして、一本だけレンズを持っていくならどれ選びますか?

新年あけましておめでとうございます。私、別所 隆弘と申します。この度ご縁があって、タムロンレンズブログに書かせていただくことになりました。よろしくお願いいたします。

ところで冒頭の質問です。人類開闢以来、これまで一億回程度は繰り返された質問だと思いますが、この新年会シーズンにおいては、今もまさにどこかの個室居酒屋でネタが尽きたタイミングで繰り広げられていることと推察します。

「いやそもそも無人島いかないし!」ご尤も。私自身、金輪際無人島に行く気もないですし、仮に運悪く行く羽目になったとしても、カメラの前にご飯とか着替えとかの方を優先します。ですが、敢えてレンズ。無人島という体力勝負の土地にEマウントのボディと一緒に一本だけ持っていくとしたら皆さんどうされますか?

僕の回答は予想されていることでしょうが、今はそう、TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III RXD(Model A036)です。半年間、プライベートで使い続けた時、何よりもその軽さに何度も驚きました。まるでワンサイズ下のカメラを持っているかのような気分になります。そしてその軽さこそが、結局撮り手である我々の全体のスペックを上げるんです。

今年の秋は、僕はこのレンズと、後は広角レンズの2本だけで、秋を撮り続けました。以下、この記事で出てくる作例は、α7RⅢのRaw設定で撮ったものをLightroomの「自動補正」ボタンを押し、水平調整しただけの画像になります。

焦点距離:41mm 絞り:F/10 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:100

焦点距離:30mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/2秒 ISO感度:100

焦点距離:28mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/125秒 ISO感度:100

焦点距離:54mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/40秒 ISO感度:100

風景の中の微妙な「青」を表現する

僕がこのレンズを好きになった理由の一つは、このレンズを世界に向けた時、そこには極めて破綻の少ない絵が出てくるってことなんです。描写もゴリゴリに解像しているんではなくて、見た感じの自然さを最優先した設計。それに加えて、コントラストや色の感覚が、実際に目で見ているときの感触に近く出てくる。特に寒色系の描写が秀逸で、一枚目は運転していたら急に出てきた印象的な田んぼだったのですが、寒そうな秋の青空がよく出ています。薄いけど、冬のように鋭いわけではなく、短い秋の気の抜けた穏やかさを幾分まだ湛えているような青。そんな色はなかなかうまく出ないんです。マゼンダ側にもアクア側にもよらない、美しい青。と思ったら、三枚目のように、雲間から鋭く見えている、冬将軍の剣先のような青もいい感じに出ている。

風景って、「青」との戦いだと思っています。画面の半分近くを占めるのは空だからです。空の広さ、空の模様、空の色をうまく捉えられたら、それはもう写真として完成に近い。その中で、最も難しいのは階調の破綻しやすい色表現なんですが、28-75mm F/2.8 Di III RXD(Model A036)を使ってるとすごく気持ちよくそこを捉えてくれます。

もう少しガツンとくる写真も準備しています。こんな写真はどうでしょう。

焦点距離:75mm 絞り:F/8 シャッタースピード:10秒 ISO感度:100

焦点距離:56mm 絞り:F/6.3 シャッタースピード:1/125秒 ISO感度:100

焦点距離:75mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/1250秒 ISO感度:100

焦点距離:28mm 絞り:F/9 シャッタースピード:30秒 ISO感度:100

こういう、コントラストの強い夜景やライトアップ、強い赤や黄色の紅葉表現にも力を発揮してくれます。色の表現が素直なので、現像の際にコントラストを強めたり、シャドウやハイライトを強めに調整しても、破綻が少ないんですね。もちろんボディそのものの持っている力もありますが、光をまず取り込む部分において破綻の少ない絵を作るのはレンズの役割で、その意味ではこの28-75mm F/2.8 Di III RXD(Model A036)は風景写真家にとっては本当に楽なレンズでもあります。

小型軽量がもたらす大きなメリット

楽さというのは大事な要素です。最初の方にも書きましたが、今の上の四枚の写真のうち、一枚目は山の上から撮影しました。500メートルくらいの山で、大体2時間ほど登山してたどり着く場所です。最後はゴツゴツした岩場で、かなり急な坂もありました。そういう時、この軽さはほんとうに楽です。山を登る、長い距離を歩く、低い姿勢を取る。人間の身体というのは、それほど忍耐強く出来ていないので、一つひとつの行動で体力リソースが削られていくたびに、思考が鈍くなり、感覚が薄れていき、最後は惰性で行動するようになります。写真なんて撮れたもんじゃない。28-75mm F/2.8 Di III RXD(Model A036)を使っていると、この写真家にとっては最も大敵である「疲労」を遠ざける効果があります。それはつまり、皆さんのポートフォリオに、他のレンズだったら増えなかったはずの一枚を加えてくれるということです。

そうすると、これまでは撮らなかったようなところまで目を向ける余裕が出てきます。
例えばこんな写真たち。

焦点距離:75mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/20秒 ISO感度:100

焦点距離:75mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/25秒 ISO感度:100

焦点距離:31mm 絞り:F/6.3 シャッタースピード:1/80秒 ISO感度:100

焦点距離:75mm 絞り:F/2.8 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:200

そう、「小さい秋」。小さい秋を撮るというのは、撮影における心の余裕みたいなものだと思っています。絶景を前にしたときに人間の意識や興味の大半はそっちに持っていかれがちです。目の前に絶景が広がっているのですから、それは仕方がない。でもそういう絶景で撮った写真より、道端に落ちていた紅葉や、斜めから入ってくる光のほうが、その一瞬おそらく強く我々の心を打っているように思います。それは世界が放つ一瞬だけの光だから。我々しか見ていない、この人生で一回きりの瞬間だから。でも写真にでも残さなきゃ、その時の記憶なんて一瞬で消えてしまうものです。「小さい秋」って、「永遠に失われる過去」と同じだと思っています。その様な一瞬へ注ぐ力をこのレンズは与えてくれる、そんな風に思っております。

そしてこの冬こそ、このレンズが力を発揮してくれるだろうと予感しております。すでに書いた通り、青を中心とした寒色の表現がすごく良い。鋭い寒さや雪の白さをこのレンズで切り取る瞬間が今から楽しみです。

焦点距離:28mm 絞り:F/9 シャッタースピード:1/60秒 ISO感度:100

焦点距離:75mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/2500秒 ISO感度:100

焦点距離:51mm 絞り:F/7.1 シャッタースピード:30秒 ISO感度:100

焦点距離:28mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1.3秒 ISO感度:100

TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III RXD(Model A036)を使用してみて

本文中でも書いたことですが、何よりもまず軽さに感銘を受けました。すでに十分にMTFなどのレンズの素性の良さを知っていて、明るさも開放F値が2.8といういわゆる「標準大口径レンズ」であるはずなのに、持ったときの軽さはその想像を超えるものでした。ボディがミラーレスでも、レンズというのは結局光学的な限界はあるので、性能を良くしようとすると重たくならざるを得ない。「画質至上主義」で考えるならば重さは天井知らずで上がっていくものですが、今回のこのタムロンのレンズは、むしろ「撮影中心主義」とでも名付けたくなるような、軽快な機動力に感動を受けました。そして出てくる画も最高。標準ズームレンズでこれ以上の素晴らしい一本はなかなか無いと、全力で勧めたくなるレンズです。

写真家プロフィール

別所 隆弘 Takahiro Bessho

フォトグラファー / 文学研究者。National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストであるNature Photographer of the Year “Aerials” 2位など、国内外の写真賞多数受賞。写真と文学という2つの領域を横断することで新しい表現領域を模索する。
滋賀、京都を中心とした”Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。

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28-75mm F/2.8 Di III RXD(Model A036)

ミラーレスに新たな風を。これまでにない美しさとやわらかなボケ味。目指したのは高画質と小型軽量の両立。世界を鮮やかに写す、フルサイズミラーレス対応、F/2.8大口径標準ズームレンズ。

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