写真家 阿部 秀之が超広角ズームレンズ10-24mmでマルタ島を撮る「ワイドズーム、その魅力」第6回(最終回)

「ワイドズーム10-24㎜でマルタ島を撮る」も今回が6回目になり最終回です。この6回を通してみなさんにもっとも伝えたかったことは、超広角ズームは決して特別なレンズではなく、誰もがごく普通に使えるレンズだということです。望遠やマクロに比べると超広角は馴染みがないので、ちょっと特殊な気がしてしまうのも無理はありません。
遠くて肉眼では小さくしか見えないものを大きく見たいという欲求は誰でもあります。それをかなえてくれるのが望遠レンズです。望遠レンズの基になった望遠鏡の歴史は古く、ガリレオが作ったのは1609年といわれています。小さくて肉眼でははっきり見えないものを大きく見たいという欲求も人が生まれながらに持っているものです。マクロレンズの大元ともいえる虫めがねは、紀元前6世紀の遺跡から出土されています。
ところが世の中には、広角レンズの基になるような広い視野が得られる光学的な道具は歴史的に見当たりません。人は肉眼で広い世界を見渡すと頭の中でその広さが合成できるからでしょうか。でも頭の中で合成した広さとレンズを通してダイレクトに見える広さはまったくの別物です。その魅力を知ってしまったら手放せなくなるのが広角レンズなのです。
一枚目の写真( 焦点距離:10mm 絞り:F/5.6 シャッタースピード:1/640秒 ISO感度:100)
綺麗な窓の装飾が夕陽で照らされています。面白いのは影です。反対側の建物のシルエットがはっきりと写し出されています。写真は光と影で作られるものです。ですが、影は気をつけないと見過ごしてしまうことも珍しくありません。ほんのちょっとの注意力が必要です。正面からではなく斜めから撮ることで奥行き感も表現しました。
焦点距離:12mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/400秒 ISO感度:100
マルタ島の家はドアや窓に色を塗り綺麗に装飾します。建物の撮影が好きな人には被写体の宝庫です。でもドアや窓だけを切り取っているとカタログの写真のようになってしまいます。窓の反射が路面に映っていたのでそこも取り入れました。画角が広いワイドズームだからできたことです。
焦点距離:14mm 絞り:F/5.6 シャッタースピード:1/400秒 ISO感度:100
首都ヴァレッタの海沿いにある建物です。光が当たっているところと影のところがあります。立体的に見えるのは大切な要素ですが、描写の硬いレンズだと明るい側がとんだり、暗い側がつぶれたりします。タムロンのレンズは諧調が豊富なので見た目通りの自然さで再現してくれました。
焦点距離:13mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/250秒 ISO感度:100
マルタ島の古都イムディーナです。かつては首都でもあったところで、中世の街並みを保っている城塞都市です。「静寂の町」の異名もあります。マルタ島は太陽の光に溢れています。湿度が低くカラッとして暑いですが、気持ちのいい暑さです。そんな空気感を写し撮りたくでシャッターをレリーズした1枚です。澄んだ空気が伝わるでしょうか。
焦点距離:10mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/500秒 ISO感度:100
5回目に紹介したレストランのあるBugibbaで撮りました。なにか懐かしい雰囲気。そうです。昭和を感じさせるものがあります。マルタ島が日本で人気になりつつあるのは、こんな景色があちこちにあるからかなと思います。10mmで赤色のパラソルと対比ができるようなるべく多くの空と雲を取り入れました。
焦点距離:12mm 絞り:F/4.5 シャッタースピード:1/20秒 ISO感度:1600
ヴァレッタにはたくさんのカフェがあります。ここは老舗で大きなカフェです。日中の暑いときはよくこの店で休憩しました。飲んでいるのはリンゴから作ったシードルです。アルコール度数は低くジュース的な味わいです。立派な内装なので背景が伝わるように低い位置から写しています。
焦点距離:16mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/25秒 ISO感度:320
3回目に登場した国立考古学博物館で撮りました。ごく普通の階段ですが、柔らかな光が回っていてなんともいえない優しい感じです。また黄色という色もいいです。被写体はどこにでもあるものです。でもそれに対応するレンズを持っていなければ写すことはできません。ワイドズームを持っていたから狭い場所でも写すことができたのです。
焦点距離:10mm 絞り:F/3.5 シャッタースピード:1/15秒 ISO感度:250
マルタ島を発った日はフランクフルト経由でデュッセルドルフに向かいました。フランクフルトでターミナルの移動をするときの地下通路です。どこまでも続く長い通路。幼いころに見たアメリカのTVドラマ「タイムトンネル」を思い出しました。レンズの歪み(ディストーション)がなくすべてのラインが真っ直ぐに中央に向かって行きます。手ブレ補正機構「VC」のおかげで暗くても鮮明に写し撮ることができました。
最終回なので、マルタ島のあちこちで撮影した写真を見ていただきました。
いかがですか。ほら、ワイドズームはもう特殊なレンズではなくなりましたね。望遠、マクロに次ぐ第三のレンズが広角です。タムロンの10-24㎜で身近だけど新しい世界へデビューしましょう。
それでは、また!
- 第6回「ワイドズーム、その魅力」(最終回)
- 第5回「マルタで料理写真」
- 第4回「マルタの猫」
- 第3回「超広角ズームでもVCはありがたい」
- 第2回「超広角ズームで撮りたい被写体と画面構成」
- 第1回「10mmと18mmの違い、10mmと24mmの使い分け」
写真家プロフィール

阿部 秀之 Hideyuki Abe
東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。タムロン宣伝課を経て、86年よりフリー。ヨーロッパの風景、コマーシャルなど、幅広いジャンルを撮影。フリーになると同時にカメラ専門誌にも執筆をはじめる。カメラグランプリ選考委員を87年より歴任。