写真家 阿部 秀之が超広角ズームレンズ10-24mmでマルタ島を撮る「超広角ズームで撮りたい被写体と画面構成」第2回

超広角ズームを手にしたら、どんな写真が撮りたいですか。
広くて、雄大で、うわっと驚くような景色! はい、確かにそうかもしれません。でも、そんな場所に撮影に行かれるチャンスがどれだけあるでしょう。そう考えるとしょんぼりしちゃいます。超広角ズームなんて手に入れても無駄なように思えてきますね。
アハハ、大丈夫です。超広角ズームといっても特別な被写体を撮るわけではないのです。日常でも旅先でも、いつでもどこでも使えるのです。
一枚目の写真( 焦点距離:24mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:100)
マルタの街はカラフルなドアや壁が多いです。特に綺麗なドアを見つけました。夕方なので斜光線になりクッキリ鮮やかです。 周りに邪魔物が多くがちゃがちゃするので24㎜でアップにしました。でも周りになにもないので状況がわかりません。
焦点距離:10mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/250秒 ISO感度:100
10mmで写してみました。状況はよくわかるようになりましたが、今度は両脇のクルマが余計です。しばらく待っていたらいなくなると思いますが、太陽が沈みそうです。難しいものです。
焦点距離:10mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/250秒 ISO感度:100
10mmのまま自分が前に出ていって両脇のクルマが入らない位置を探しました。周囲の状況もわかりつつ撮りたいカラフルなドアも大きく写っています。被写体に寄りつつも周囲も広く写せる。後ろへの引きがない場所では特に有効です。これも超広角の魅力です。
焦点距離:10mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/400秒 ISO感度:100
実際にはそれほど雄大ではないマルタ島の海辺です。それでも青い海と白い雲があって広い画角で収めると雄大に見えます。海も空も横に広いのでヨコ位置で撮るのが当たり前のように思えます。。
焦点距離:10mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/500秒 ISO感度:100
ならば思い切ってタテ位置にしてみましょうか。どうでしょう? ヨコ位置の時よりも力強く立体的に見えませんか。実はふだん見ていない視野だからこそインパクトがあるのです。
焦点距離:10mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/500秒 ISO感度:100
空をもっと大きく入れたいので少しだけ振り仰いで撮りましょう。自然に画面の下側がカットされ整理されました。いい写真になったと思います。
焦点距離:10mm 絞り:F/9 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:100
超広角レンズを持つと誰もが一度は経験するのが間違った遠近感のとらえ方です。超広角はレンズを振り上げたり降り下げたりすると被写体の形が歪みます。いつの間にか被写体の形が崩れることを超広角の描写だと思い、迫力が出ていると勘違いするようになります。この場合は遠近感が天地に向かってつくことになります。
焦点距離:10mm 絞り:F/9 シャッタースピード:1/320秒 ISO感度:100
遠近感は奥へ向かってつかなければなりません。建物は歪まないようにレンズを水平になるように構えましょう。上の方が切れてしまいますが、仕方がありません。上まで入れたければ脚立に乗るか、一脚でカメラを持ち上げるといった工夫が必要です。
焦点距離:10mm 絞り:F/8 シャッタースピード:1/500秒 ISO感度:100
今回のマルタ旅行で撮った写真の中でも好きな1枚です。若いカップルが防波堤越しに海を眺めているところです。写真には海は写っていないので、なにをしているのかわからないかも知れません。そこが、先が見えない未来に対する2人のイメージのように思えるのです。この写真は10mmで撮りました。それほど画角が広いようには思えませんよね。超広角くささがないのも好きな理由のひとつです。
- 第6回「ワイドズーム、その魅力」(最終回)
- 第5回「マルタで料理写真」
- 第4回「マルタの猫」
- 第3回「超広角ズームでもVCはありがたい」
- 第2回「超広角ズームで撮りたい被写体と画面構成」
- 第1回「10mmと18mmの違い、10mmと24mmの使い分け」
写真家プロフィール

阿部 秀之 Hideyuki Abe
東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。タムロン宣伝課を経て、86年よりフリー。ヨーロッパの風景、コマーシャルなど、幅広いジャンルを撮影。フリーになると同時にカメラ専門誌にも執筆をはじめる。カメラグランプリ選考委員を87年より歴任。